2023/09/27
★さまざまな内分泌疾患
ペットの長寿化に伴い、人と同じように生活習慣病や高齢者疾患が多く見られるようになってきました。肥満や慢性関節炎、腫瘍・癌や心臓病に腎臓・肝臓障害、そして糖尿病を始めとした内分泌疾患もそうです。
内分泌疾患とは、各臓器から分泌されるホルモン量のバランスが崩れて起こるる疾患です。ホルモンの分泌はフィードバックなどもからみ体内全体に影響を与えまた与えらえて複雑に絡み合います。膵臓から分泌されるインスリンに始まり、甲状腺・副腎皮質・上皮小体などが知られています。
★膵内分泌ホルモン 糖尿病
インシュリンは膵臓から分泌されるホルモンで、体細胞の糖利用に関わっています。このインシュリンが不足したり何らかの理由で作用できず、血中にとどまっている状態が糖尿病です。人では、インシュリンに対する自己抗体ができて利用できないⅠ型と肥満やインシュリン抵抗性を示すⅡ型がありますが、犬ではⅠ型・ネコではⅡ型が近いのではないかと言われています。
症状は初期では、太っていたペットが痩せてきた、水をよく飲み尿の回数が増えたなどといった訴えがあります。病状が進むと、吐いたり下痢をしたりなどの他臓器症状が現れます。治療をせず重症化すれば、アシドーシスを起こし全身状態が悪化し命に関わることもあります。
ただし、決して治らない…という病気ではありません。きちんと検査をしたうえで適量のインシュリンを毎日接種することで血糖値を安定化させ、ペットに普通の生活をさせることが可能なのです。また医療食を給餌したり皮下点滴を併用するとより効果的なことも経験上分かっています。実際当院では何人ものペットが糖尿病の診断のうえ、治療により何年も健康を維持してQOLの高い生活を続けています。
糖尿病症例
①ヨーキー、メス(避妊済)
7才で発症、当初血糖値450mg/dl前後を呈し皮下輸液とインシュリン療法を開始する。 4~5日でインシュリン量がほぼ決定し、自宅でのインシュリン接種に切り替える。 定期チェックで多少の変動あるも血糖値は3年間調節できていた。その間徐々に白内障などは進行するも全身状態は良好に維持。10才頃より徐々に肝・胆系の機能低下する共に高脂・高コレステロール血症を呈す。内服薬併用し始める。13才の頃より腎不全がみられ血糖値も不安定になる。皮下輸液等併用して治療するも、徐々に衰弱して死亡。発症より6年間インシュリン治療にて維持した事になる。
②ヨーキー、オス(去勢済)
5才で発症、当初血糖値500mg/dlと肝酵素の中程度の上昇とTG・TCHOの高値を呈した。インシュリン治療を開始し、定期的に来院し血糖値・他の測定と皮下輸液治療をしてほぼ血糖値安定させる。多少の変動ありつつも、4年後の現在も良好に体調を維持している。
③日本猫、メス(避妊済)
ほぼ通院歴なかったものが、14才のとき子宮蓄膿症を発症し摘出手術を受ける。その頃よりBUN・CREの中程度の低下のため、投薬と定期的皮下輸液を開始する。17才になった頃、多飲多尿傾向を示して血液検査で500mg/dlの高血糖とTG・TCHOの高値を示した。自宅でのインシュリン注射と定期皮下輸液・血液検査を開始。多少の体調変動はあるものの、19才になる現在も全身状態を維持している。
④雑種猫、オス(去勢済)
13才のとき多飲多尿の訴えで来院。当初血液検査ではGLU>600の高血糖とBUN・CREの中程度の上昇と高TCHOがみられ、自宅でのインシュリン治療と定期血糖値チェックと皮下輸液の治療を開始する。
15才になる2年間血糖値等体調を維持していたが、近日インシュリン液の変質か?血糖値その他の異常値を起こし全身状態悪化、対症療法で現在小康状態を維持している。
★甲状腺ホルモン
〇甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモン欠乏に起因する疾患で、高齢犬にしばしばみられ猫では非常に稀であるといわれています。
両側性の脱毛・色素沈着・角化以上・膿皮症などの皮膚症状が一般的で、その他肥満・活動低下・徐脈などがあげられます。ホルモン剤の投薬などで調節が取れることが多いです。
〇甲状腺機能亢進症
甲状腺腫または癌による甲状腺ホルモンの過剰分泌を原因とし、高齢猫では一般的で8才以上で3~4%が羅患すると推測されています。
体重減少・嘔吐下痢・多食・多動・興奮などがみられます。抗甲状腺薬を用いて調節をとりますが、甲状腺切除手術を選択する場合もあります。
★副腎皮質ホルモン
〇副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)
生体内でコルチゾールなどが過剰になることで引き起こされる疾患で、猫より犬に多いといわれています。脳下垂体や副腎皮質の腫瘍に起因するものと、グルココルチコイドの長期利用による医原性のものに分かれます。
多飲多尿や多食・腹囲膨満・脱毛・皮膚菲薄化・面皰などを特徴とします。グルココルチコイドの合成阻害剤などの薬物治療の他、腫瘍性のものは手術・放射線治療などがあげられます。
〇副腎皮質機能低下症(アジソン病)
副腎皮質から分泌されるステロイドホルモンの不足により起こる疾患で、若~壮年の雌犬に好発し猫では極めて稀であるといわれています。特発性の副腎皮質の委縮を原因とすることが多いようです。
グルココルチコイド・ミネラルコルチコイドの両者が不足し、虚弱・食欲不振・体重減少・下痢嘔吐・徐脈・低体温などがみられ、さらにストレスが加わると突然のショックに陥り緊急治療の対象となることもあります。ショック時には緊急治療をし、維持状態ではグルコチコイドの利用・電解質調節などがあげられます。